家族信託は、高齢の親の財産管理や相続対策として注目されていますが、すべての家庭にとって必要とは限りません。むしろ、状況によっては家族信託を導入しない方が良いケースもあります。ここでは、家族信託が「不要なケース」と、その判断基準について見ていきます。
判断基準として最も重要なのは、財産管理の必要性があるかどうかです。たとえば、高齢の親がまだ元気で判断能力があり、財産も複雑でない場合、無理に家族信託を組む必要はありません。銀行口座の管理や日常的な出費も問題なく行えているなら、今すぐ信託を始めるメリットは少ないでしょう。
次に、親族間の関係性が良好でない場合も慎重になるべきです。家族信託では、受託者に権限が集中するため、他の親族が不信感を抱きやすくなります。たとえば、長男を受託者にしたところ、「お金を勝手に動かしているのでは」と兄弟間で対立が起きるケースも少なくありません。親族間に信頼関係が築けていない場合は、むしろトラブルの火種になる可能性もあります。
さらに、財産の種類や金額が少ない場合も、信託の導入は再検討の余地があります。家族信託の契約には、公正証書の作成費用や司法書士・税理士の報酬など、ある程度の初期コストが必要です。仮に信託する資産が現金200万円のみといったケースでは、その費用に見合うメリットを得られないこともあります。
また、すでに他の制度で代替できる場合も信託が不要な可能性も。たとえば、銀行口座については「代理人制度」や「成年後見制度」を活用する方法もあり、目的に応じてよりシンプルで費用のかからない選択肢も存在します。
家族信託は便利な制度ではあるものの、すべての家庭に必要とは限りません。親が元気で財産も複雑でなければ不要なケースもありますし、親族間の信頼関係が弱い場合はトラブルの元にもなりかねません。費用や手間もかかるため、「本当に信託が必要か?」という視点で冷静に判断することが大切です。